入居者本位は「虐待」になる
介護士K (@kaigo_kk) です。
入居者本位は時として『虐待』になる。
相手の「意思」を尊重するのは介護の基本ですが、時としてこの考えは「危険」です。
一歩間違えば『虐待』に繋がります。
今回は、介護現場のリアルな現状をもとに「入居者本位」についての考察です。
人間は「拒否」をする
- 起床
- 睡眠
- 食事
- 排泄
- 入浴
- レクリエーション
日常における様々な場面で「拒否」はつきものです。
起きましょう → NO
お食事ですよ → NO
トイレへ行きましょう → NO
お風呂へ入りましょう → NO
全てにおいて「拒否」をする入居者もいます。
「入居者本位」といって全て希望通りにしていたら…
- 1日中寝ている
- 丸1日何も食べない
- 毎回尿便失禁で更衣
- 1ヶ月入浴していない
という事になります。
考え方次第では「ネグレクト(放置・放任)」という立派な「虐待」です。
100%相手の意思を尊重するのが、良い介護とは言えません。
介護現場の「実例」
「入浴介助」の実例をご紹介します。
10名中8名が拒否
10名が入浴する予定の日がありました。
入浴担当は介護士Aさん。
Aさんは「入居者本位」が信条。
この日、入浴担当のAさんは、かなり早い時間に入浴介助を終えてフロアに戻ってきました。
「早かったですね」と声をかけると…
今日は8名拒否だったから、すぐに終わったよ。
8名に「拒否」をされたので、2名だけ入浴介助をしたと。
ゆっくり入浴させてあげたい
別の日、Aさんは中々入浴介助から戻ってきませんでした。
何かトラブルがあったのかと、他の職員が様子を見に行くと、10名中3名しか入浴できておらず、残りの6名はまだ脱衣所にすら居ませんでした。
このペースでは昼食に間に合わないと伝えると…
入浴はご利用者様の楽しみなんだから、ゆっくり入らせてあげて何が悪いの!?
…と怒りだしてしまいました。
結局その日は、他の職員がヘルプに入り、何とか全員入浴できましたが、4名は昼食に間に合いませんでした。
介護は「平等」であるべき
Aさんの気持ちは解りますし、間違いではありません。
ただ、希望をすべて聞き入れることが、正しい介護とは言えません。
拒否をされないように誘ったり、時間通りに全員の入浴を終わらせるのは、介護士の大切な仕事です。
- 毎回拒否を受け入れた結果、1ヶ月入浴していない。
- 1人に時間をかけ過ぎて、他の人がゆっくり入浴できない。
これは、良い介護とは言えません。
「入居者本位」を勘違いしてはいけない
介護施設は「集団生活」の場なので、基本的には「平等」であるべきです。
ある人はゆっくり入浴できて、ある人は5分で流れ作業的に…
これでは駄目です。
ADL(日常生活動作)の違いなど、完全な「平等」は物理的に不可能ですが、意識することは大切です。
介護士はそれぞれ「介護観」を持っていいて、Aさんのように「想い」が強い人もいます。
正解・不正解がないので、難しいところです。
介護施設によって「平等」は異なる
介護施設には様々な業態があります。
- 特別養護老人ホーム
- 高級有料老人ホーム
とでは、入浴介助ひとつ取っても、提供できるサービスが全然違います。
従来型特養は、午前中だけで25名を怒涛のスピードで入浴するのに対して、高級有料ホームは午前中に1名付きっ切りで介助…といった感じ。
「牛丼屋」と「帝国ホテル」ではサービスの質が違いますよね。
どちらが良い悪いではなく、環境によって「平等」は異なります。
自分の「介護観」に会った環境を選ぶべき
Aさんのように、1人1人とじっくり向き合う介護がしたい人は、従来型の特養より、高級有料ホームのほうが向いています。
逆に、私のように「慌ただしく時間に追われる」くらいが性に合ってる人は、高級有料などは向きません(※経験済)
自身の「介護観」を理解した上で、自分に合った業態、職場を選ぶことが、介護職人生の充実に繋がります。
逆に、合わない業態、職場は大きなストレスになります。
今いる業態、職場にストレスを感じている人は「転職」も視野に入れてリサーチすることをお勧めします。
自分に合った環境で「自分らしく」仕事をするのが、充実した仕事人生に繋がります。
まとめ
「入居者本位」というのは、解釈を間違えると『虐待』に繋がります。
要求を全て聞き入れたり、目の前の人にだけ向き合うことは「平等」とは言えません。
介護施設の業態によって、提供できるサービスは大きく異なります。
自身の「介護観」を理解した上で、自分に合った業態、職場を選ぶことが、介護職人生の充実に繋がります。
どうせなら「楽しく」仕事しましょう。